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BOOK

2004年12月

封印再度 / お師様は魔物 / 進め!大魔術師 / 大魔術師も楽じゃない / 猫とロボットとモーツアルト

『封印再度-WHO INSIDE-』  森博嗣  講談社文庫

森博嗣のS&M(犀川と萌絵)シリーズ第5作目に当たる作品。

分類としてはミステリになるのですが、私は恋愛小説と思って読んでいます。 小説をどう読み、どう感じるかは読者の自由ってことで。

著者ご本人が、当初は本作でシリーズを打ちきるつもりだったとおっしゃっていたのも納得。 そのため、主人公二人の関係にも進展がみられます。恋愛小説という面で見れば、おいしい展開というやつです。 (後にプラス5作、全部で10連作になりました)

謎の核心は、天地の瓢と無我の匣。 壺に入った鍵と、その鍵で開く鍵箱。 しかし、壺の口は鍵より細く、壺を壊してしまわないと鍵はとり出せないように思われる。 壺を割らずに取り出すことは可能か?それとも不可能であることが何かのメッセージなのか? なかなかに魅力的な謎。

鍵の解答は個人的にかなり好みでした。知っている人にはすぐわかるけれどという問題です。こういうのもあるんだと感心。

題名が英語のサブタイトルと洒落になってるのも気に入ってます。

以下ネタバレ。許容できる方のみ反転してお読みください。

更に注意。京極夏彦「陰摩羅鬼の瑕」のネタバレも含みます。未読の方はご注意下さいませ。

注意書きはご覧になりましたね?

森博嗣氏と京極夏彦氏の共通点は、森氏の文庫解説や、ご本人によってたびたび言及されていますが、本作もかなり似通った点が見られます。

まず、本作の章に付けられた英題は、十牛図から取られたものですが、京極氏の「鉄鼠の檻」にも十牛図がでてきます。 この点については、「森博嗣のミステリィ工作室」(講談社文庫)内の『いまさら自作を語る』でもご本人が述べておられます。

また、人の「死」という概念を捉えられないことによって、謎が複雑になるという話は、京極氏の「陰摩羅鬼の瑕」とまったく同じといって良いでしょう。 もっとも、そこに置く重点は、本作の方は比較的軽く扱っており、それに対して「陰摩羅鬼〜」の方はかなり比重が大きくなっております。「陰摩羅鬼〜」の、それで世界観がひっくり返るという大掛かりな仕掛けは圧巻でした。

こういう分かりやすい所ばかりではなく、根本的な考え方がお二人は似通っているのでしょうね。それぞれの作品を読んでいると、同じことを言ってるなと感じることがよくあります。

再読すると、謎の解は最初から分かっているので(といっても、いつもほとんど覚えていない。記憶力に問題ありですな)なるほどここに複線が張ってあったか。などと細部に目が行きます。それで気がついたのですが、一見意味のないダジャレや比喩表現にはっきりと答えが書いてありますね。 こういう個所を見つけると、嬉しくなります。

シリーズは一応完結していますが、その後書かれた短編などで、この二人も登場しているようなので、今後の進展が楽しみです。

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『お師匠様は魔物!』 ロバート・アスプリン  矢口悟・訳  ハヤカワ文庫FT

"ANOTHER FINE MYTH" Robert Asprin

いわゆるユーモア・ファンタジーです。なんとなく手に取ってみたのですが、期待以上に面白かったです。

見習い魔術師であるスキーブ。彼のお師匠様は「ちょっとしたいきさつ」で魔物を召喚しようとするも、儀式の最中に殺し屋に襲われ、殺されてしまう。 魔物を制御するお師匠様がいなくなってしまったため怯えるスキーブだが、実は魔物はお師匠様の友人。お師匠様と魔物は、お互い自分の弟子達にはったりを利かせたい時は召喚しあえるという、ふざけた約束をしていたのでした。 しかもお師匠様の「悪戯」で魔物は魔力を失ってしまって元の世界に帰れないと言う。 成り行きでスキーヴはその魔物、オゥズの弟子になることに。

この物語でいう"魔物”とは"次元旅行者”のこと。 世界にはいくつもの異なる次元があって、それぞれに固有の種が住み、文化があるのだそうだ。そして、ある次元の者が他の次元に行くと、その世界に住む者とは異形のもの、つまり魔物と呼ばれる。

作中で異次元に転移する場面があるのですが、行った先はディーヴァの市場と呼ばれるところで各次元の珍しいものが何でも手に入るという場所。 異次元らしく(?)妖しげなものが沢山あって、その記述が面白い。 スキーヴの住む世界の食べ物は口に合わないと、お酒ばかり飲んでいるオゥズですが、市場では食堂(といっても屋台)に入ります。しかしオゥズの食事ってなんなんでしょう。はっきりとは書かれていないのですが、匂いのせいで他店に迷惑がかかるので、移動を繰り返さずをえない店で売ってる物ってちょっと考えたくありませんねえ。

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『進め!見習い魔術師!』 ロバート・アスプリン  矢口悟・訳  ハヤカワ文庫FT

"MYTH CONCEPTIONS" Robert Asprin

魔物であり、お師匠様でもあるオゥズの入れ知恵による「はったり」で宮廷魔術師に登用された見習い魔術師スキーヴ。

就職先(?)の王国はなにやらごたごたしているよう。接近中の敵軍を、一人で撃退する羽目に。大軍を相手に、知恵を働かせて何とかがんばろうと、ひとまずは仲間集めを始めます。

前作では全くオゥズに頼り切っていたスキーヴですが、集めた仲間のチーム・リーダーとして皆を率いるべく奮闘します。 急場しのぎの寄せ集めとはいえ、仲間みんなを大切にしようとするスキーヴに好感が持てました。年老いた弓の名手に言った「必要じゃないこともあるからって、役立たずっていうわけじゃありませんよ。」というセリフが彼の優しさを表してると思います。

本シリーズの楽しみは、ストーリーやキャラクター造形だけではありません。 各章の冒頭にはさまざまの偉人や有名人の言葉が引用されているのですが、そのどれもがもっともらしくて、実はまったくのでたらめ。 訳者あとがきに、引用された文の発言者とされる有名人の解説があるので、そちらも併せて読むと面白いです。

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『大魔術師も楽じゃない!』 ロバート・アスプリン  矢口悟・訳  ハヤカワ文庫FT

"MYTH-ING PERSONS" Robert Asprin

マジカルランド、第5作です。

いつの間にやらディーヴァの市場で魔術師家業を始めたスキーヴとオゥズ。 以前は弟子と師匠の関係だった彼らですが、今や対等なパートナーです。 初め、魔術を使えるといっても羽を浮かせるのがせいぜいだったスキーヴですが、それなりの実力を身に付け、何より頼りなかった彼がかなりのしっかり者になってます。

ヴァンパイアたちの住む国(次元)へ行くことになったスキーヴたちですが、そこで会う人たちがみんな怯えて逃げてしまう。 1巻の感想でも書きましたが、この作品の中でいう魔物とは"次元旅行者"のこと。人間だって他の次元に行けば異形のものとして扱われることもあるのです。自分(人間)を中心に考えているとつい見落としがちなこと。

登場キャラクターも増えてにぎやかな感じになってます。 1巻からちらちらと影の見えていた謎の女の子(と男)も登場。 オゥズのちゃっかりしたところも相変わらずです。

このシリーズで好きなところは、出てくる人(と人以外)がみんな結局はいい人だってこと。 主人公のスキーヴは特に周りの人にとても優しい。(女の子には甘すぎるともいえる。) スキーヴの周りにいる人は、なんだかんだといいつつも、みんな彼を慕ってます。悪い奴だって実は大したことはしてなかったり。

世の中そうそうキレイゴトでは済まないけれど、こういう世界が本の中にはあってもいいなと思いました。

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『猫とロボットとモーツァルト-哲学論集-』 土屋 賢二

ユーモア・エッセイストとして有名になりつつある土屋先生ですが、れっきとしたお茶の水大学哲学科の教授。いたって真面目な彼の一面が垣間見える論文集です。

哲学に以前から興味があったこと、土屋先生がどのような研究なさっているのかが気になっていたこと。この二点から本書を手に取りました。

専門店的な論文集ということで読み通せるか不安だったのですが、平易な文で書かれているため理解したとは言いがたいけれど、非常に面白いと感じました。

表題でもある『猫とロボットとモーツアルト』は、芸術とは何か?という問いを、芸術を解し行うことが出来るロボットが作れるかという視点から考察しています。 モーツアルトが5歳から作曲をしていたという逸話を引き合いに、なぜ、5歳の彼が作曲をしているとわかったのか、猫が鍵盤の上をでたらめに歩くのとはどう違うのかなどを例に挙げての説明が続きます。 先生のご趣味であるジャズに関する話題もちらほら。私はジャズにはとんと疎いのですが、持っているほんの数枚のCDが話題に出ていて少し嬉しくもありました。 収録されている論文の中ではこれが一番わかりやすかったです。

アリストテレスの有名な問い「人のいない森で木が倒れたら音が出るのか?」というのにも挑んでおります。話半分に聞いたことはありあますが、突き詰めるとどんどんややこしくなっていく問題なのですねえ。

哲学の重要な命題、「存在」についても触れております。とにかくややこしい問題ですが、結局「存在」をそうそう定義することは出来ないということだけは分かりました。

哲学に興味はあるけれど、取っつきにくい印象を持っている方には一読の価値がある論文だと思います。

哲学をふまえてエッセイを読めばもっと面白くなる。かな?

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