「百器徒然袋ー雨」に続く、薔薇十字探偵社ものの第二段。 榎木津が暴れてます。以上。
ほかに説明のしようがありません。 「探偵」榎木津礼次郎がお気に入りの方は必読でしょう。
榎木津礼次郎を知らない人へのご説明。
超美形、高学歴にお金持ちの御曹司、さらに人の過去が「視える」という特殊能力の持ち主である生まれながらの「探偵」。しかし、自称「神」で、上記のような長所も全部打ち消してしまうような破綻した性格の人間が、ひたすら暴れまくって事件を解決する話です。間違いました。解決しません。粉砕します。
って、この説明読んで読みたくなる人はいないかな。。面白いので、一度お手に取ってみてくださいませ。
各作品とも章の頭の文に注目すると、なかなか凝っていています。 いつも巻き込まれる語り手の、名前に関するちょっとした仕掛けも、前作に引き続ききっちり用意されています。こういうオチ、好きなんで嬉しいです。
"THE STARRY RIFT" James Tiptree Jr.
舞台は、人間がヒューマンという一宇宙種族として扱われる連邦宇宙。その辺境の<リフト>周辺部を中心に物語が進められる。 同じ背景を基礎とした三つの短編が、各話の間に挿入された話しでつなげられて、一本の長編小説を成してます。
挿話は若いコメノ(一宇宙種族)と年老いた図書館司書・モアとの会話が主体。 学生であるコメノが、勉強のため連邦創世記のヒューマンのファクト/フィクション(歴史小説のようなもの)を読むという設定。 次第に親しくなっていく彼(彼女)らの関係も面白い。
表題「たったひとつの冴えたやりかた」では、まだ幼い15歳の少女コーティが、ヒューマン(人間種族)を救うために取った、まさに"たったひとつの"冴えた方法が描かれます。 このコーティという少女の好奇心と、大胆かつ適切な決断力、そしてそれに伴う行動力がとても魅力的。
第三話「衝突」では、<リフト>周辺に加えて、ジールタンという惑星が主に舞台となる。 ジールタンに住む女性翻訳家の活躍振りが気持ちの良い作品。 ジールタンに住む種族は独特の生殖方法を持つ。その記述もなかなか面白い。
本作は全編を通して、生殖をモチーフとしているように見受けられます。 挿話の学生と司書の年齢差や、第二話「グッドナイト、スイートハーツ」のヒロインとなる女性は、生と老い、つまり死を象徴しているよう。そして生は性を、死は次の世代への交代を意味する。 そして「たったひとつの冴えたやりかた」と「衝突」では、まさに直接的に、異星人のヒューマンとは異なる生殖方が重要なファクターとなる。
これは、ティプトリーという特殊な作家(調べればすぐにわかるし、あとがきにも書かれていますが、ティプトリーを初めて知ったという方のために伏せておきます)の生き方と深く関わるテーマだなと感じました。
北村薫の「円紫さんと私」シリーズ第5段です。
私、このシリーズ、前作の『六の宮の姫君』で終わってるとてっきり思ってました。「私」の大学生卒業ということで、切りが良かったので。 まだ続くようなので、嬉しいです。
1〜4作までの大学生篇に引き続き、本作は社会人篇。 「私」は、学生時代のアルバイト先である「みさき書房」で働いています。 出版社に就職できるとはうらやましい。
収録作品は以下の3編。
「山眠る」 卒業間近の出来事。
「走り来るもの」 リドル・ストーリー物。 リドル・ストーリーとは、結末が読者にゆだねられている小説のことです。
作中には、かなり有名なはなし「女か虎か」が登場しますが、これには続編もあるんですよ。ネットで検索すれば出てくるかも。 リドル・ストーリーには答えがありませんが、本作に登場する話にはきっちり解答が用意されています。
「朝霧」 祖父の日記から見つけた謎。暗号です。
本シリーズは、ミステリという体裁をとっていてその実は「私」の成長物語。
「山眠る」では、幼い頃の友人の変化。 「走り来るもの」では、姉の結婚、出産。大人の恋愛。人の裏切り。 「朝霧」では、叶わなかった恋と、これから始まる恋。
「私」は世界の残酷さと素晴らしさを学んでいくのです。
文庫化されるのにかなりの年月がかかったので、少々懐かしさを感じさせる文章があったりします。 冒頭でまず、ワープロを買ったとの記述があるけれど、今ならパソコンになるんだろうなぁ。 「小学生がワープロでラブレターを書くような時代になったらしい」そうだが、今なら小学生がホームページを持つ時代。世の中変わるもんです。
"Peter Schlemihls wundersame Geschichte" Adelbert von Chamisso
主人公・シュミレールは、燕尾服のポケットから、望遠鏡やら絨毯やらテント一式やら、さらには三頭の駿馬まで出してしまう不思議な男に出会います。 この男「仕立屋の針からこぼれ落ちた糸屑みたいなあのおとこ」と描写されていますが、なかなかに不気味で押しの強いやつ。
そして男は、シュミレールの影を見事だと褒めて、その影と幸運の金袋(きんぶくろ)とを交換しないかと持ちかけてきます。 いくらでも金が出てくる魔法の袋の誘惑に、影と交換することを承知したシュミレール。 男はくるくると影を巻きとり、例のポケットに収めてしまうのでした。
人はお金があっても影が無ければ幸せになれないのか?
シュミレールは影が無いため行く先々で不気味がられ、引き篭もる生活を送り、自分の不幸を嘆きます。 でも、失ったもの(影)ばかりではなく得たもの(金)もあるだろうにと思うんですが。 まあ、金がすべてとは言いませんが、お金で買えないものがあるとしても、お金で買えるものほど多くはないし。 もともと不思議な男に会ったきっかけも、人の家に金の無心に行ったからなのです。 今後外に出れないということ以外は生活にも困らないし、事情を知る忠義深い召使いベンデルとも出会えたし、とそう悪いことずくめではないのでは?とも思えるのですが、我が身のことではないからですかねぇ。
ところで、シュミレールと光の下で出会った人は、すぐに彼に影が無いことに気がついて悲鳴を上げるんですが、人の影のあるなしなんてすぐに気がつくのかな。 この本が書かれた19世紀頃は影が大流行した時代(影絵など)だそうだから、時代背景も違うということなのかな。
影とは自己の象徴であって、なくす筈がないと油断していれば、思わぬ落とし穴にあうぞってなことでしょうか。
"TALES FROM SHAKESPEARE" Charles Lamb
シェイクスピアの名作をイギリスのシェイクスピア研究家が子供向けにリライトしたものです。 子供向けと言っても、原文の雰囲気や言い回しは残したまま。原作を壊さず、かつ読みやすく書かれているそうです。
シェイクスピアは戯曲なので読みにくく、敬遠していたのですが、本作は小説仕立てに直してますので、読みやすかった。 収録されている作品は、「テンペスト」や「真夏の夜の夢」「お気に召すまま」など有名作品が多数。 もちろん「ロミオとジュリエット」や四大悲劇のうち三作「ハムレット」「オセロ」「マクベス」なども入っています。 シェイクスピア入門として読んでもいいかも。
シェイクスピアはどちらかと言うと悲劇の方で有名なようですが、喜劇の方が私の好みでした。
特に気に入ったのは「十二夜」。 このタイトルは聞いたことがなかったのですが、ドタバタした喜劇でおもしろかった。 双子が事故で離れ離れになってしまうのですが、思わぬところで再開。周辺の人たちを巻き込んでの騒動が起きますが、最後は大団円。 全員が幸福になれる話しなので、気持ち良く読めました。