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BOOK

2004年10月

誰がこまどり殺したの? / バルーン・タウンの殺人 / ルー=ガルー / チャリング・クロス街84番地 / スーパー書斎の仕事術 / 鱗姫 / 製造迷夢 / ミシン / アフタヌーンティの楽しみ

『誰がこまどり殺したの』 篠原一  河出書房新社

有名なマザーグースの詩である”Who Killed Cock Robin”をはじめ、各章のタイトルとして詩が冠されています。

第一章、"I,said the Sparrow"は「その夏、彼は彼女を殺した」と衝撃的な導入。夏と森の緩慢な空気。雨とラジオのノイズに覆われた世界。

第二章、"Sleep, baby, Sleep"はコンピュータ・ネットワーク上のゲームで不思議な出会いをする少年二人。そして現実へと舞台は移る。篠原一の著作によく出てくるモチーフである、カニバリズムがここにも。獣になるとはどういう事か?ある女性がその鍵らしいけれど、その女性が何者かはまだ謎。

第三章、"Godd bless the moon"四章、"The cock doth crow” は病院が舞台の中心となり、前章までは間接的にしか登場しなかったある女性もはっきりと姿を現します。そして<卵>は孵化し、<天国のドア>にたどり着ける時代がくるという。その女性はどういう存在なのか。

初め、各章は独立した話に思えたのですが、話しが進むにつれひとりの女性を中心として世界が共通しているという事が理解できます。 謎の女性を追うのもいいけれど、ただひたすらその架空世界のイメージに酔うのもまたよし。 非現実的な現実感。退廃的な清々しさ。矛盾はここに共存しうるのです。 著者の独特の言葉選びが魅力的で、その描写は連続して撮られた写真を一枚一枚眺めているよう。

今、改めて気がついたのですが、本書は横書きです。 あまりに自然だったので気がつきませんでした。各章の冒頭に短い縦書きの文章が効果的に使われています。例えば第1章にはこう。

「ただひとつ、あなたの名前だけを知っている。」

話しを読む前はいきなりポンと言葉が放り出されたようにしか感じられなかったのですが、読み終えてから戻ってみると、そこにかかれた短い文章が、各章の本質であることに気がつきます。 何気ない言葉にどきりとしたり、切なくなったり。 世界観と、文体やレイアウトがぴったりとはまっている点も本書の魅力をさらに増しているようです。

Amazon 『誰がこまどり殺したの』
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『バルーン・タウンの殺人』 松尾由美  創元推理文庫

東京都第七特別区、通称バルーン・タウン。人工子宮(AU)での出産が当たり前になった世の中で、自然分娩を望み、大きなお腹を抱えることを選んだ女性達のための街。 妊婦達ののどかなイメージにもかかわらず、何故か事件は起きてしまう。妊婦だって人間。トラブルだって起きるのだ。

バルーン・タウンには、妊婦である事もしくは特別の許可がないと入れない。厳重に入り口で管理されている。何よりも、大きくないお腹は逆にこの街では目立つ。 必然的に、街の内部で起った犯人(第1話は外で起きたが、犯人らしき人影が街へ入っていった)は、街の住人つまり妊婦だという事になる。事件解決のためには、街の内部での捜査が不可欠になる。 そこで派遣されたのが警察官である江田茉莉奈。女性より男性の方がなじみやすいだろう。その理由で選ばれた。

バルーン・タウンの描写が面白い。皆一様に大きなお腹で(妊婦だから当たり前だ)ゆったりと歩いている。早く動けないので、すべてがスロー・ペースだ。

AUが当たり前の世界で、あえて妊娠する事を選んだ女性達の大半は、妊婦はかくあるべしという固定概念にきっちりと従わなければ気が済まないらしい。パステル・カラーのマタニティ・ドレスに身を包み、日がな一日編み物や、裁縫、昼寝をして過ごす。話題はお腹の事ばかり。 妊婦など見る事がほとんどなくなった世界で育った茉莉奈は、その様子に不気味さや眩暈さえを感じる始末。

現在、もちろん妊婦さんを見かけるもしくは身内にいる事は大しておかしい事ではないけれど、確かに頻度は少ない。 実際私は、妊娠中の女性と直接話した事があるのは、叔母が妊娠した時の一度きりだ。道を歩いて妊婦さんとすれ違う時は、顔を見てももちろん普通の人と同じで、ちょっと下に目をやるとぽっこり唐突に突き出たお腹にびっくりする事もある。 「エレベーターは満員だった。といってもぎっしりなのはお腹のところだけで、顔のあたりはすいている」という一文を解説の有栖川有栖氏は取り上げているが、確かになんとも異様だ。

しかし、妊婦以外の登場人物は大方、妊婦を異常なまでに気味の悪いものとして扱っているところが少し気になった。経験してみないと(それは私を含め)確かに、体内に別の生命がいる事や(神秘的ともいえるけれど、裏返せば理解のできないことということになる。)見た目の変化、妊娠中や出産時の苦労をわざわざ買って出る人はちょっと変に思うかも。今はスタンダードな妊娠という経験が、特別なものへと変わった時には、実際にみんなこのような反応をするのかもしれないなあ。

さて、その妊婦の街で起きた事件、一見簡単に解決しそうなものが多い。 例えば第1話、『バルーン・タウンの殺人』では、目撃者が多数いる。 事件は街のすぐ外で起きるが、偶然通りかかった男性の会社員(もちろん妊婦ではない)は犯人の姿を見ている。

しかしこの目撃証言は当てにならなかった。というのも、皆一様にお腹が出ていた。としか言わないからだ。 「妊婦は透明人間なの。お腹以外は」と言う事らしい。ミステリ好きの人ならば、給仕か車掌かと突っ込みたくなるだろう。

そこで当てになると思われたのが、犯人らしき怪しい姿を街の中で見た妊婦達。しかし彼女達はその人影が「とがり腹」であった事程度しか覚えていないという。なお、「とがり腹」とはお腹の形。名称通りとがってぽこんとでている。この逆が「亀腹」。このお腹の形は各話で重要な役割を果たすので、覚えていて損はない。

この街の妊婦達にとっては、各人を特徴づけるのは、顔ではなくお腹の形らしい。犯人らしき者は、珍しいぐらいのとがり腹だった。得られた情報ではっきりしているのはそれだけ。

茉莉奈は丁度妊娠中でこの街に来ていた大学の先輩の暮林未央に相談を持ちかける。妊婦の助けなしに事件は解決できないと思ったからである。暮林はミステリー研の先輩で、現在翻訳家。未婚の母(それ自体は珍しくないらしい)にして、自ら妊娠する事を選んだ変わり者である。 結局は暮林の助言あって事件は解決するわけだが、ある陰謀までからんできて大変。たかが妊娠されど妊娠。なのでした。

トリックとしてなるほどなるほどと感心したのは、『バルーン・タウンの密室』。 視察に訪れた知事が殴られるという事件だが、犯人がどこから入り、どこから出たのかはようとして知れない。さらには動機も。

厳密に言うと密室ではない。窓は開いていたし、クローゼットの奥の板が外れるため、隣室からの出入りは全くの不可能というわけではない。「穴だらけの密室」。 けれども、警備は厳重で、外からの侵入は考えにくい。そして同じ建物にいたのは妊婦と一児の母親。窓から入る事は不可能ではないが、妊婦がムリをしたとは考えにくいし、現在大きなお腹をしていない唯一の女性は高所恐怖症。

クロゼットの奥を通るには、約20センチの隙間を通らなければならないが、妊婦のお腹ではつかえてしまう。そして残りの女性は素晴らしいまでのナイス・バディ。調査の結果、彼女の場合は胸がつかえて通れないという結論に達した。 その謎を解く鍵は、やはり妊娠に関係する事だったのが。。これは経験した女性でないとなかなか思いつかないかな。 妊婦ばかりという設定を一番上手く生かせていたのがこの短編でした。

なお、『亀腹同盟』に関しましては、シャーロック・ホームズのネタバレが含まれておりますので、未読の方はご注意下さい。

『なぜ、助産婦に頼まなかったのか?』は、クリスティ・ファンとしてはニヤリとしてしまった題。内容は関係ありませんが、妊娠に思想がこんなにも関係するものかと、驚きつつも納得。 暮林未央の秘密も少し明らかになります。

『バルーン・タウンの裏窓』 は、ワトソン役(?)で第二作目から登場した有明夏乃がメインとして頑張ります。 暮林未央は安楽椅子探偵ばりに電話だけで事件を解決。 彼女がまだ探偵役を続けるのか、それが気になるところでしたが、どうやら続編も書かれているようなので、また彼女達に会えると思うと楽しみ。

設定のおもしろさにSF的魅力がありますが、さらにはしっかりと本格推理小説の面白さも兼ね備えており、毎回あっと驚く真相を提示してくれます。

文庫版の巻末に付く、有栖川有栖氏の解説もかなり秀逸かつ面白いので、そちらも必読。

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『ルー=ガルー 〜忌避すべき狼 』  京極夏彦 徳間書店

舞台はどことも知れないが、おそらく日本の近未来。 情報化の進んだ社会で、人々はモニタの前で大半の時間を過ごす。 子供たちは学校ではなく自室のモニタ前で「学習」をすることになる。

しかし、全人類的発想から、やはり直接顔を合わせてのつき合いが必要だということで、コミュニケーション研修なるものは実施されている。彼もしくは彼女達が直に家族以外の人間と接触する機会は、この時のみであることが多い。

そんな世界で、14,5才の少女を中心に狙ったと思われる殺人事件が起きる。

初め、共通点が無いと思われていた被害者たちにあるつながりが判明するが、それではどうしてもはみ出てしまう殺人がある。犯人は何故、このような殺人を犯したのだろうか。

物語りは二つのサイドで展開される。

まずはコミュニケーション研修で同じクラスの少女たちのサイド。こちらはおそらくはこの時代の標準的な少女、牧野葉月の視点から語られる。彼女の友人とはいえない、微妙な関係の神埜歩美。天才少女・都築美緒。この三人を中心に、やはり研修のクラスが同じオカルト志向の作倉雛子や、美緒の小さい頃からの知り合いで、国籍を持たない猫こと麗猫。らが活躍する。

もう一方のサイドはは葉月達が通う研修クラスのカウンセラーの不破静}の視点で、彼女は成り行きで警察機関のはみ出し者、橡と行動を共にすることになる。 なお、教師という言葉は廃止されて使われることはないそうだ。

管理社会とはいえども、管理されているのは情報であって現実ではない。「魔法は使いたい放題だ。」と言う美緒。情報を書き換えてしまえば、嘘は真となり、真は嘘となりうる。彼女のいう通り、それは魔法である。そして「辻褄さえあってれば誰も疑わない。」ところがこの社会の落とし穴となったのだ。

作中、「そして狼は赤ずきんを食べてしまった。」というシャルル・ペローからの引用がある。(フランスの詩人で『ペロー童話集』の著者) しかし、赤ずきんを食べてしまった狼が猟師に撃たれないとしたら、狼に存在意義はあるのだろうか。全てはなかったかのような終わり。現実に結末は必要ないのだというけれど。

700ページを越える厚い本ですが、さらっと読めてしまいます。京極夏彦らしく、やや説明的で助長なところもありますが、中心に少女達を持ってきたためか、物語りにもわかりやすい動きがあって退屈しません。特に後半、犯人というか、殺人の背景に主人公達が気づき始める辺りからは、なかなかにスリルがあって展開も早いです。 京極夏彦のファンである方はもちろん、読んだことはまだ無い、分厚いので敬遠しているという方にもおすすめできる作品です。

Amazon 『ルー=ガルー 〜忌避すべき狼 』
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『チャリング・クロス街84番地-書物を愛する人のための本』 ヘレーン・ハンフ 中公文庫

"84 Charing Cross Road" Helene Hanff

一度図書館で借りて読んだけれど、とってもおもしろかったので手元に置くために改めて購入しました。本、特に古本を愛する人にはぜひ読んで欲しい本。 実際に存在した古書店とその顧客の書簡集です。

編者のヘレーンと、古書店の人々。アメリカとイギリス、海を越えての交流は、直接会った事は無くても心が通いあっていて、そのやりとりに読んでいるこちらも温かい気持ちになります。

ヘレーンが注文する本は大半がつい敬遠しがちな古い文学だけれど、彼女の読みたい!という気持ちがこちらにも移ってきて、私も読みたい!になります。この本に出てきたのがきっかけで読んだ本も結構あります。

Amazon 『チャリング・クロス街84番地-書物を愛する人のための本』
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『スーパー書斎の仕事術 』  山根 一眞 文春文庫 1989

「情報整理の達人が披露するとっておきの情報活用法」だそうですが、私がこの本に興味を持ったのは、「山根式袋ファイル」の解説がされているから。

「山根式袋ファイル」とは、A4の封筒を使ってあらゆる情報を整理しようというもの。 A4ファイルにちょっとだけ手を加え、インデックスを付けたら、同じテーマの書類や、CD−R(この本が書かれた当時はフロッピー)、人に貰った名刺や写真など、何でもかんでもをまとめて入れてしまいます。 こうすれば、異なる大きさのものもすっきり収まる上に、必要な情報は一ヶ所にまとまていて、探すのにも便利。

私がこの「山根式袋ファイル」を知ったのは、山根氏の著書ではなく、実際にこれを実践している人のエッセイを読んだからです。そのエッセイには結構詳しい解説があったので、そこに自分がこうすれば便利だろうと思う工夫を加えて私も利用しています。しかし、やはり原典を読んでおかねばと、本屋では在庫切れで手に入らないようなので、図書館で借りてきました。

前々から、大きさの異なる書類やメモの整理に悩まされていました。 整理の時一番大事なことは規格の統一であると私は思ってます。一時は全てのメモをA4もしくはA5の紙に統一することを考えたのですが、自分自身がどんなにがんばっても、人から貰う資料はA版B版が入り乱れて、不揃いなこと甚だしい。大事な情報はスクラップしていましたが、手間を考えると限界もあるし。と、かなり規格の不統一にイライラしていたのですが、この「山根式袋ファイル」を使うことで全ての資料はA4に統一されてすっきりします。何より手間がほとんどかからないところが気に入ってます。

本書は「山根式袋ファイル」以外にも、著者の整理哲学とも呼べそうな彼自身の情報整理への考えが述べられています。 初版が1989年であるため、パソコンはまだ普及せず、ワープロがやっと当たり前のものになってきたというようなところには内容に古さを感じさせますが、基本的な情報整理の方法論は今にも十分に通用するものだと思います。

Amazon 『スーパー書斎の仕事術 』
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『鱗姫 』 嶽本野ばら  小学館文庫

「春になればもう、少し早いと笑われようが日傘をさすのは当然なのです。」 美貌を誇る乙女には、日傘を禁止する学校の規則なんて何のその。

「いわゆるバリバリのお嬢様」である名門龍尾家の長女・楼子は「美」に絶対的価値を置き、自分の美しさを自慢に思うが、ある日その美意識からは到底受け入れられないような奇病を患ってしまう。 それは身体に鱗が生えてくるというもの。

血まみれの伯爵夫人、エリザベート・バートリーのエピソードや、カリスマ的魅力を持つ楼子の叔母との会話を通して、独特の美意識が語られ、形成される過程がなかなか面白です。 バートリーについては、島田荘司の『アトポス』にもエピソードが登場しましたね。有名なのかしら。

乙女のカリスマとされるらしい嶽本野ばらですが、彼の作品で特徴的なのは、乙女という言葉のイメージにありがちなメルヘンさがないこと。 ファンタジーを求めてもファンシーではない。現実的で生々しい描写からも逃げない。 そんなところに魅力があるのかも。

Amazon 『鱗姫』
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『製造迷夢 』 若竹 七海 徳間文庫

『僕のミステリな日常』でデビューした若竹七海の短編集。

人や物に宿る残留思念を読むことのできる「リーディング」の能力を持つ女性、井伏美潮。その能力を生かし、探偵と占い師の中間のような、相談役を職としている。 見潮は、刑事・一条風太と知りあい、事件の解決に一役買うことになる。

リーディング能力があるゆえに、場合によっては犯人そのものが見えてしまうこともあるだろうが、それではミステリは成立しない。そのため、リーディングがあるゆえに惑わされるような、そんな事件を設定しているところが上手いなと思う。

人の心が読めたり、過去が見えたり。そんな設定の探偵(や探偵以外)が出てくる小説も結構見かける。 その能力ゆえに人から疎まれることも多くあるようだけれど、さて、見潮の場合はどうだろうか。 小説には描かれていないところにこそ、人間のミステリィがあるのだと思う。

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『ミシン 』 嶽本野ばら  小学館

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乙女のカリスマ、嶽本野ばらのデビュー作。

収録作品は「世界の終わりという名の雑貨店」と表題「ミシン」。

「世界の終わりという名の雑貨店」

ちょっとしたいきさつで、無料で店舗を借りられることになった元フリー・ライター。 彼は手持ちのアンティーク雑貨と、駄菓子屋で売っているようなシャボン玉やら何やらを売る雑貨店を開く。店の名前は「世界の終わり」世界的なデザイナーVivienne Westwoodの店「WORLDS END」から。 彼の店は、明かりは蝋燭のみの暗く狭い店舗で、決して入りやすい雰囲気ではない。繁盛していたわけではないが、彼は彼の店が気に入っていた。 そこに訪れたひとりの少女。彼女はそれは自然にVivianの服を着こなしていた。初めて来た日以降、彼女は毎日来店するようになる。そして、帰る前に壁にかけて売ってある紙せっけんをひとつまたはふたつ買っていくのだった。 毎日続く彼女の来店。しかし彼は店を閉めざるをえない状況になり、彼は初めて彼女に声を掛ける。

「ねぇ、君。雪が降っていますよ。」の一文から始まる物語は、「僕」の回顧といった形で進みます。 独特の呼びかけるような、優しい文体が印象的。 目的地を持たない逃避行は思わぬ結末を迎えますが(お決まりで陳腐な表現だけれど)、それからの彼がどうなるのかが気になります。

「ミシン」

「古いものにしか興味が沸かないという性癖」をもつ「私」。 彼女は滅多に観ないテレビで、偶然に見かけた「死怒靡瀉酢(シドビシャス)」というパンクバンドのボーカル、ミシンに惚れ込み、共にあることを願う。

乙女に必要なのは努力ではなく執着心(!)。願を掛け、祈り続けることで彼女はとうとうミシンに近づくことができたのでした。 同じ性癖を持つものとして、同志としてミシンに迎えられた彼女は、ミシンからの最初で最後の願いをかなえることにする。

憧れのミシンに近づく為には、「必勝」はちまき(受験の時にも使わなかったもの)を巻いてのお百度参りも苦にならない!この暴走っぷりが乙女の真骨頂。 でも、乙女って何?なんて事は野暮なので訊かないで下さいまし。

乙女という言葉はもう死語で、マイナーで、社会からは受け入れられない存在であることにこそ魅力があると思っていたのですが、最近は乙女がブームらしく(今号のnon-noにも特集があったなあ)どうも面白くありません。 著者の嶽本野ばらの『 下妻物語 』も映画化されることで注目を集めているようだし。 メジャーな乙女なんてどうも違和感を感じますわ。

あ、愚痴になってしまった。 作品は、かなり好き嫌いが分かれそうだけれど、感性の合う人にとってはとても面白いと思います。 青の表紙の、マットな質感の装丁も気に入ってます。

Amazon 『ミシン』
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『アフタヌーン・ティの楽しみ-英国紅茶の文化誌- 』 出口保夫 丸善ライブラリー

サブタイトルが「英国紅茶の文化誌」とあるように、イギリスにおける紅茶の歴史を紹介している本です。

紅茶そのものの話しだけではなく、紅茶の器となる陶器の歴史や、紅茶と深い関わりのある文学者の話しなど、興味深い話題もたくさん。 白黒ではありますが、図も多数挿入されていて楽しいです。ティーパーティの様子を描いた絵は、昔の貴族達がどのように紅茶を楽しんでいたかがよく伝わってきます。 単なる歴史の羅列ではなく、著者の個人的見解も述べられていて、読みやすいエッセイに仕上げられています。

著者である出口保夫先生の英国と紅茶に関する本はかなり読んでいますが、テーマが絞られている分、どうしても似た内容になってしまいがちでした。それが心地よくて読んでいるのですが、たまには違ったものを読みたいもの。本書は、歴史的観点から見るということで、他の著作とはすこし趣を異にしていて、新鮮で良かったです。

Amazon 『アフタヌーン・ティの楽しみ-英国紅茶の文化誌- 』
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