"MRS PARGETER'S POUND OF FLESH" SIMON BRETT
<ミセス・パージェター・シリーズ>の4作目。 パージェター夫人は未亡人。夫が残してくれた遺産で悠々自適に暮らす。夫・パージェター氏は普通ではない仕事をしてかつかなりの人間に慕われた人格者。各地には彼の昔の仕事仲間や協力者がいて、「ああ、ご主人がわたしにどれだけのことをしてくださったかを考えると...」といった調子で、夫人にもあれこれと協力してくれる。
服役中で、パージェター氏の仲間であった夫を待つ妻のキム。彼女は夫が出てくる前に是非とも痩せたい。痩せなければ夫に愛想をつかされてしまうわ主張する。そんなキムの付添として、ダイエット・サロンへ入ることにしたパージェター夫人。 彼女は夜中、サロンの廊下で「私は殺されてしまう。もう誰にもとめられない。」という若い女の声を聞く。 そして翌日にはこっそりと運び出される死体を見てしまうのだった。 このダイエット・サロンの経営者アンクルディープ・アークライトは、パージェター氏の昔の仕事仲間。故人となったパージェター氏に恩を受けたアークライトは夫人に親切に振る舞うが、死体の事について問いかけた途端、どうも素振りが怪しくなった。ついには夫人から避けるように姿を消してしまう。
といった感じで話しは始まります。 初め、死体の女性は殺人か事故死かの区別がつきません。医者の診断によると拒食症による衰弱死。しかし彼女が死んだという事実は、後に隠蔽されてしまう。 そして、パージェター夫人がこの事件について調べ出すと、またも事故らしいことが起きます。 そこへ『脂肪に負けぬ精神』というダイエットのベストセラー本の作者で、どうも一筋縄ではいかなそうなスー・フィッシャーや、パージェター氏の昔の仲間、そして裏切り者の影までからんできて、物語は複雑に。
次々に登場する個性的な人物達に、パージェター夫人の推理など、興味は尽きませんが、本作に更に魅力を添えているのは亡きパージェター氏の昔の仕事とその人柄。 どうも法に適合した仕事ではなかったというのはわかるのですが、具体的な話しが出てきません。それなりに金庫がどうだとかほのめかしはあるのですが。そしてそんな仕事をしているのにも関わらず、悪いことが嫌いで、人を純粋に信頼しがちなパージェター氏。 昔の仲間たちは皆「ご主人がわたしにしてくれたことを考えりゃ...」となるのです。
そしてストーリーとは直接関係ありませんが、これまた魅力的なのが食事の描写。 ダイエット・サロンが舞台とあって、そこで提供されるのは「レタス添えカッテージ・チーズ、カッテージ・チーズ添えレタス、レタス添えレタス、カッテージ・チーズ添えカッテージ・チーズ」といったもの。毎日は嫌ですね。。
しかしパージェター夫人、そのような食事は我慢ならないと「アレルギー」を主張して、サラダだけではなく、お肉も必要。たっぷりした食事にワインもなけりゃ。というわけで、特別アレルギー・ルームで食事をすることを認めさせるのでした。
彼女がアレルギー・ルームで食べるものといったら「昼食には田舎風ニジマスのアーモンド添えとカシスのシャーベット、夕食にはアンペリアル風仔羊肉とティラミス」。なんておいしそう。 ダイエット中とは全く逆の食事ですけど、パージェター夫人の気持ちの良い食べ方を読めば、まあいいか。私もおいしいもの食べたい。と思ってしまうのです。食欲の秋には要注意の作品。
『阿修羅のごとく』等で有名な放送作家の向田邦子さんのエッセイです。 素敵な女性として女性誌に取り上げらていた記事でお写真を拝見しましたが、綺麗な方ですね。
ドラマはとんと疎くてわからないのですが、このエッセイはとても面白かった。 彼女の「昔」は戦前だそうなので、話題は古いものが多いのですが、古くさいということは全くありませんでした。考え方が先進的なのかな。それでいて古風な美徳も持ち合わせていらっしゃる方のようです。
痴漢に遭った悔しさに、一週間掛けて探しだし捕まえる気の強さを見せたかと思えば、いかにも家長然とした厳しい父親のもと育てられた少女時代が語られます。
何かと難癖をつける父親が酔っぱらって帰ってきた時の 「なんだ、これは。どなるタネが何もないじゃないか」 というエピソードがほほ笑ましい。 頑固おやじは現代で歓迎されるものではありませんけど、こういう風景っていいなと思いました。
一番面白かった題が『浮気』。 女性の「ミニサイズの浮気」について。ああわかる。と共感。
美容院を替えるだけで何故に後ろめたいのだろう。本を持って本屋へ入る時の気持ちなど、似たようなことをやってるなあと我が身を振り返って苦笑してしまう。日常のちょっとしたことを、上手に切り出して面白い話に仕立てているところが見事。
とにかく感心したのが、文章の美しさ。文学的名文というのとは少し違いますけれど、正しい言葉遣いが徹底している。私もぜひこのような文章が書けたらなあとため息をつきつつ読了いたしました。
『誰がこまどり殺したの 』につづき、天国の扉を扱った作品です。といっても天国の扉、あまり出てきませんでしたけど。
「もう帰ってこられないのかも知れない」 タケイが成り行きで少年を"殺した"次の日、奇妙な男が家に訪ねてくる。 男は一緒に来るようにというメッセージを届ける。そしてタケイは家を出る。
殺した筈の少年は生きていて、タケイに路地裏にいた老人を、そしてある少女を殺害するよう指示する。
少年。 メッセージを届けに来た男。 優しくて「他人の死が好きな」女性、橡子。 そしてタケイ。
登場人物達についてはあまり詳しく描写されていない。どんなところで生まれ育ったか。どうしてこのような成り行きになったのか。 そして、天国の扉は開くのか。
作品が理解を拒んでいるのか、私に読みこなす力がないのかはわかりませんが、天国の扉というのがよくわかりませんでした。 しかし文章に魅力があり、すいすい読ませます。 殺人のシーンにしたって、グロテスクなはずなのに、嫌悪感を感じさせません。
「ここに生命が極まった」
の一文に引き込まれてしまいました。
ストーリーに関してはちょっと消化不良気味なのですが、その世界観や言葉の選び方はこの著者にしか書けないものだなと、ひたすら感心した作品でした。
一度は読んでおこうと思いながらもつい面倒で避けていた『ソクラテスの弁明』ですが、読みやすい訳文に出会えたことでやっと読み終えることができました。 本書ははじめにプラトンについての簡単な解説が書かれている点も良かったです。
収録作品で読んだのは『ソクラテスの弁明』と『クリトン』。その他『ゴルギアス』も入っていましたが、こちらはまたの機会に読む予定ですが、一休み。
『ソクラテスの弁明』は、ソクラテスが若者に怪しい思想を教え、また異教の神を信じているというかどで訴えられた「ソクラテス裁判」におけるソクラテスの陪審員(アテナイの一般市民)に対してした演説をプラトンが後に記したもの。 実際には、ソクラテス自身はギリシアの神に非常に信心深く、どうやら訴えられた背景には政治的思惑があったのだとか。
『クリトン』 クリトンとはソクラテスの友人で、彼は獄中のソクラテスに国外逃亡するよう説得をしようと試みる。 かの有名な言葉「悪法も法なり」はこの二人の対話中に出てくる。説得しにきたクリトンが、逆に説き伏せられてしまう形になってしまうけれど、「でも、君には生きていて欲しい」という仲間達の気持ちのほうがなんだか説得力があるように感じてしまう。頭で理解できても、感情はやはり違う。それでも自己の哲学を曲げない人物だからこそソクラテスは偉大だったのだろうけど。
「悪法も法なり」や「無知の知」など言葉は有名で、知ったつもりになっていたけれど、どのような文脈で述べられたのかを知ることは非常に大切だなと感じた。
風邪で寝ついている友人の夏宿(かおる)を市郎は見舞いに訪れる。 紺屋を営む夏宿の家は昔ながらの家らしく、広く暗い。庭には湿気が多く、奥には鯉の住む池がある。
毎年日焼けをして健康そのものだった夏宿が、今年は外に出る事もなく、驚くほど白い肌をしている。そのことに心を痛める市郎。夏宿に触れれば壊れてしうのではないかとさえ怖れる。
夏宿には弟がいて、その名は弥彦。弥彦は何故か市郎にいつも敵意のこもった視線を向ける。 そして、訪れた市郎に、「兄さんは疾うに死んだのに」と言い張る。 弥彦のピアノ教師も意味あり気な言動を繰り返すだけで、謎が深まります。
盂蘭盆の四日間、市郎は夏宿の家に泊まるが、そこで不思議な体験をする。弥彦は意味のわからぬ言葉を繰り返す。夏宿は池に幽霊が出ると言って譲らない。
夏宿が風邪をひいたきっかけである蛍狩りの日に起きた事件がこれらの謎を解く鍵らしい。 交される言葉のはしに、市郎の心の揺れに、ふとした描写に伏線が張ってあり、すべてが明かされるラストに向かって収束します。納得する反面、少し切ない結末に。
イメージの反復により世界が形作られていくのが長野さんの作品の特徴ですが、どうも本作は同じ表現が続きすぎて退屈気味。同じ事を書く時は、それぞれ違う言葉で表現して欲しかったなと思うのですが、これは読者のわがままですね。
ひんやりとした田舎の夏のイメージが伝わってくる作品です。
住んでみなくちゃ分からない、その国の文化。 りんぼう先生がイギリスに初めて滞在した時の話題を中心に、ユーモアを交えてイギリスの文化を紹介されています。
テレビで見かける「一人の男と彼の犬」なるスポーツ。羊飼いの評論家? シャワーのない浴室でいかに風呂に入るか。 うんざりするほど甘いクリスマス。
などなど。日本人から見たイギリスは何とも愉快。 逆にイギリス人から見た日本も奇妙なものなのでしょう。
愉快な面だけではなく、イギリスで経験したすばらしい思い出も。 日本とは全く違うイギリスのflood(洪水) 月夜の庭の美しさ。 そしてマナーハウスでお世話になったボストン夫人。「ウオッホッホ」と笑う彼女は、『グリーン・ノウ物語』の作者として有名な作家であった。
読んでいて一番興味深かったのは食べ物に関するはなし。 豪勢なアフタヌーン・ティもいいけれど、気の置けない人と一緒にいただくマグいっぱいの紅茶が一番おいしそう。
イギリスといえばやっぱりクリスマス・プディングだけれど、りんぼう先生がクリスマスに招かれた家では一年前から作っているそう。日本でもたまに見かけますが、どうも見た目があやしくて食べるには至っておりません。 以前読んだ『イギリスはおいしい 』でもクリスマスの様子が書かれていましたが、どうやら同じ日のことを少し視点を変えて取り上げているようです。
読んでいる時は自分がイギリスになった気分に。読み終わった後はイギリスに行きたくなる。 そんなエッセイです。
ボストン夫人の著作、第1巻。 『グリーン・ノウの子どもたち』 L.M.ボストン, 亀井 俊介